三菱東京UFJ銀行が、独自の仮想通貨(MUFGコイン)を発行する為の実証実験を行うという話が2017年5月に報道されました。
もし実現されれば、世界初のメガバンクによる仮想通貨の発行になるそうです。
銀行が独自の仮想通貨を発行するとはどういうことなのか?その影響も含めて考察してみました。
追記 2017年9月、Jコイン構想も発表されました。
→みずほ・ゆうちょ・地銀…邦銀連合で仮想通貨 個人同士の決済、便利に :日本経済新聞
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もくじ
管理者が居るブロックチェーン
まず、「ビットコイン」と「銀行が発行する独自仮想通貨」って仕組み的にどう違うのか?について。
ビットコインの台帳であるブロックチェーンは、パブリック・ブロックチェーンと呼ばれるもので、誰でも自由に参加できるP2Pネットワークによって管理・更新されています。
ビットコインには特定の発行責任者は居ないということです。
ちなみに、パブリック・ブロックチェーンでは全ての取り引き情報はオープンになっています。
一方、銀行が独自の仮想通貨を発行するというのは、銀行が責任を持ってその台帳であるブロックチェーンを管理することになります。
そのような特定の管理者がいるブロックチェーンのことをプライベート・ブロックチェーンと呼んで区別しています。
注)以下、長いので「パブリックチェーン」「プライベートチェーン」とそれぞれ省略します。
パブリックチェーンとプライベートチェーン
プライベートチェーンももちろん、P2Pによる分散型のデータベースになっています。
ただしプライベートチェーンの場合は、管理者に許可されたコンピュータのみで構成されたP2Pネットワークになっています。
つまり社内の複数のコンピュータで分散してブロックチェーンを維持しているということです(もちろん全部同じ部屋に置いてるわけじゃないと思いますがw)。
プライベートチェーンもパブリックチェーンと同じく、従来の中央管理型のデータベースに比べて以下のようなメリットがあります。
- 改ざんが極めて困難
- 落ちることはまずない
- 維持管理コストが安い
これらの特徴はパブリックであろうとプライベートであろうと関係なく、ブロックチェーン型データベースの特徴です。
プライベートチェーンのメリット
しかもプライベートチェーンの台帳はパブリックチェーンに比べて勝る点があります。それは、送金処理にかかる時間が圧倒的に短いということです。
パブリックチェーンでは、悪意のある参加者への防衛策として、ブロックチェーンに新しいデータを書き入れる際にはPloof of Workという作業を課しています。
ビットコインのProof of Workには早くとも10分程度はかかるように難易度が調整されているので、大量のトランザクションを捌こうと思えばどうしても時間がかかってしまいます。
しかしこのPloof of Workはブロックチェーン上のデータの正しさを保証する為の仕組みなので、自由参加のP2Pではある意味仕方ありません。
※むしろ自由参加・不特定多数のP2Pによる正確な情報管理を可能にしたこのPloof of Workという仕組みこそが画期的。
しかしプライベートチェーンの場合、P2Pネットワークを構成するコンピュータ内に悪者はいません。全てのコンピュータ(ノード)はブロックチェーンに正しい情報を書き込む為にそこに参加しています。
ということはプライベートチェーンにはPloof of Workはそもそも必要ないんです。送られてきた取引内容に問題が無ければ、すぐさまブロックチェーンに書き込むことで送金処理を完了させられるわけです。
これがパブリックチェーンに比べてプライベートチェーンが決定的に優れている点です。
あとブロックチェーンの内容(取引内容)を非公開にできるというのも、銀行業務のことを考えるとメリットと言えます。
暗号化されているとは言え、お金の動きが外部から丸見えというのはちょっと嫌です。そこは隠してくれた方がいいと思います。
プライベートチェーンのデメリット
デメリットと言えるか分かりませんが、プライベートチェーンは管理者(銀行)の信用の上に成り立つものです。
そもそもビットコインは誰の権力にも頼らない通貨という点で魅力があり、ブロックチェーンの仕組みの素晴らしいところは管理者への信用が必要ない(トラストレスシステム)というところです。
プライベートチェーンはパブリックチェーンとは違って、その管理者の信用の上に成り立ちます。手放しで信用するしかありません。
特定の組織が管理権限を握っているわけです。
全てのP2Pノードに対する管理権限があれば、その気になればブロックチェーンの内容を改ざんすることも可能です。
故意であれミスであれ、管理権限というものが存在する以上はそういうことが起こり得るという点で、セキュリティの面でパブリックチェーンには劣ると言えます。
銀行の信用の上に成り立つブロックチェーン
とは言え、元々銀行は絶大な信頼を得た上で現在のネットバンキングシステムをまさに管理しています。一般的に、銀行がデータを改ざんするなんてことは絶対無いと思っているし、銀行ほど高度なセキュリティは無いはずです。
その信用の上にブロックチェーン型のシステムを築くわけです。
旧来の中央管理型のデータベースに比べるとブロックチェーン型の方が改ざんにも強く、サーバーダウンの心配もほぼないので、信用の上に成り立つブロックチェーンというのはある意味、理想的なシステムです。
特に日本のメガバンクであれば経営体力も含め、安心して任せられると思います。
銀行が通貨を発行するとは
MUFGコイン
冒頭でも説明したように三菱東京UFJ銀行がMUFGコインという独自仮想通貨を発行しようとしています。
三菱東京UFJ銀行が管理するプライベートチェーン上でその台帳データを管理する仮想通貨です。
同行に口座を持つ利用者は、1円=1MUFGコインの比率で預金をコインに交換することができるようです。
1円で1コインを購入するような形ですね。もちろん、逆にコインを円に戻すこともできるはずです(手数料とかは知りませんが)。
そのコインを使ってネット上で簡単に決済できるサービスなんかも増えていくんだろうと思います。もちろんオンラインのみならず店頭ででもスマホさえあればピッとやるだけで決済できるシステムも導入されるでしょう。
国内での利用に関しては現在ある決済システムと大差ないかも知れませんが、海外送金する際に大きな恩恵を受けられます。
例えば空港などで自分のMUFGコインを現地の通貨に両替できるようになるそうです。海外への送金手数料、かかる日数を考えると大幅に便利になると言えます。
日本人の感覚からすると、発行主体がいないビットコインよりも、円との交換を約束されたMUFGコインの方が安心感があると思います。ビットコインに抵抗がある層もMUFGコインなら使うのではないでしょうか。
ゆくゆくは同行に口座を持たない人でも、MUFGコインを入手できるような仕組みを作って、どんどん流通させるでしょう。
仮想通貨の利便性と、円(法定通貨)の信用を組み合わせるのは、通貨として理想的かも知れません。
言わば法定通貨の仮想化です。
銀行間の通貨発行競争
三菱東京UFJ銀行だけでなく、国内の他のメガバンクも、もちろん海外のメガバンクも同じように独自の仮想通貨を流通させようとするはずです。
世界中の大銀行は今、ブロックチェーンによる送金・決済システムを実用化しようと実験段階にあると言います。
仮想通貨による決済システムが普及することで、一番得をするのはそれを管理する銀行自身と言えます。
正直、日本国内の利用者からすればカード決済や、オンライン決済、モバイル決済など様々な便利なサービスのおかげで、それらを使いこなせさえすれば現在でも充分便利です。
しかし、この便利な仕組みを支える為に裏では相当複雑でメンテナンスコストのかかる業務が繰り広げられていると想像します。
しかも銀行の基幹システムには、信じられないぐらいレガシーなシステムが現存しています。厳重管理された基幹システムに幾重にも上塗りされて出来ているのが今の便利なネットバンキングシステムです。
もしそれらをブロックチェーンで置き換えることができれば、とてつもないコストダウンに繋がります。
独自通貨を発行せずとも、社内の管理システムをブロックチェーンに置き換えるだけでもかなり削減される業務は多いはずです。
資本主義である以上、大銀行と言えども競争は避けられません。多くの銀行はこれからの時代に生き残る為には、ブロックチェーン技術を利用した台帳管理システムを構築するでしょう。
MUFGコインは円との交換を保証されたコインですが、もちろん、円ではなくドルとペグされた仮想通貨も出て来るでしょう。
世界中の銀行が自社の持つ資産とペグする形で独自の仮想通貨を発行するのではないかと思います。
競争の果てにある世界
紙本位制の崩壊
銀行が発行した仮想通貨が広く流通し、デバイスからデバイスへと簡単にその通貨を送金できるようになれば、いよいよ本物のキャッシュレス社会の到来です。
カード会社のように現金をプールした上で裏でその現金を動かすことで実現されたキャッシュレスではなく、そもそも現金が関わっていないことになります。
もちろん、他行の仮想通貨とも交換できる仕組みが作られるだろうし、事実上、世界中どこででも使える通貨ということになります。
なんと便利な世の中でしょう。
この状況、何かに似ていると思いませんか?
そうです。金本位制の崩壊です。
その昔、紙幣とは金との交換を約束された約束手形みたいなものでした。「この紙を持って然るべきところに行けば金に変えてもらえる」という価値があったから、皆、その紙を欲しがり、結果的にその紙が流通しだしたわけです。
※金との交換を約束された紙幣を兌換紙幣と言います。
紙なら金よりも圧倒的に軽いし、便利に決まってます。
その結果、どうなったかと言うと、金本位制の崩壊です。まあこの辺の詳しい話は貨幣システムの世界史 増補新版などの本を読んでもらうとして、面白いことに、紙幣自体が価値を持ってしまったんですね。
詐欺みたいな話ですが、皆で騙されればこんなに素晴らしい話はありません。わざわざ金山を掘りに行かなくても、紙に数字を書いて印刷するだけでいいんですから。
で、いよいよ今度は紙も要らなくなるというわけです。
元々は円という価値にペグされたコインが隅から隅まで流通するようになると、「円?お札?そんなのいらねーよ。どうやって使うんだよwww」という世界になっていきます。言うなれば、まさに紙本位制の崩壊です。
かつて紙幣が金との交換を放棄したように、仮想通貨が紙幣との交換を放棄する。
これまた詐欺みたいな話ですが、皆で騙されればこんなに素晴らしい話はありません。紙を刷る必要もないし、台帳を付ける必要もないんですから。
中央銀行がなくなる未来
紙幣が要らないとなると、紙幣を刷る(管理する)という中央銀行の役目が無くなります。
また、決済や送金の全てが直接的なものになれば、民間銀行も中央銀行もその仲立ちとしての役目は無くなります。日銀の当座預金上での帳尻合わせなんてする必要がないんです。
中央銀行の仕事がすっ飛ばされるわけです。
もちろん民間銀行の業務も大幅に縮小されるでしょう。
融資に関しても、ソーシャルレンディングやICOという仕組みがもっと一般的になれば、もはや銀行はすることがありません。証券会社もそうですが、融資したい側と融資されたい側が直接結ばれる仕組みができれば間を取るビジネスはすっ飛ばされます。
そもそも暗号通貨が普通になった時、一体どれだけの人がわざわざそれを銀行に預けようとするでしょうか。暗号通貨を預けるというのはすなわち他者に秘密鍵を教え、自分でそれを保管することを放棄するというだけの話です。
誰かにわざわざ秘密鍵を教えなくても、生体認証等を使って安全にそれを保存することができるサービス(商品)などももっと普及するだろうし、それは既存の銀行がやる必然性もないように思います。
結果として、独自通貨を発行していない銀行はいずれ存在意義がなくなるとしか思えません。
極端な話、銀行の業務は自社が発行する仮想通貨を管理しているプライベートチェーンを支える幾台かのコンピュータの安全を守ることぐらいです。
その管理料として、自社が発行する仮想通貨の利用に対してわずかな手数料を課す程度のビジネスになるのかも知れません。もちろんシェアが大きければ莫大な利益が生まれると思いますし、その余剰資金を元に仮想通貨の信用創造(つまり融資)を行う仕組みも作られるかもしれません。
何十年先の話かは分かりませんが、そしてとんでもなく大きな抵抗勢力も存在するとは思いますが、この流れは抗いがたいものだと思います。
マネーの歴史にまた新たな1ページが刻まれようとしています。
今でも既にほぼキャッシュレスで生活している人もいるだろうし、利用する側だけを見ればそんなに大きな変化には感じないかも知れませんが、仮想通貨が流通するというのは非常に大きなパラダイムシフトと言えると思います。
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